仙台高等裁判所 昭和44年(う)372号 判決 1970年2月16日
被告人 高橋武見
主文
原判決を破棄する。
本件を盛岡簡易裁判所に差し戻す。
理由
本件控訴の趣意は、盛岡区検察庁検察官事務取扱検事鹿道正和名義の控訴趣意書に、その答弁は弁護人佐々木衷名義の答弁書にそれぞれ記載のとおりであるから、これを引用する。
記録によると、原判決は、本件公訴事実である車輛等の徐行義務違反の罪(道路交通法一一九条一項二号、四二条)は、同法一二五条一項の反則行為であるが、その反則者である被告人に対し、刑事手続に先行して都道府県警察本部長の通告により反則金を納付する機会を与えられ、かつ所定の期間内に反則金を納付しなかった場合でなければ公訴を提起することができないのに、その手続を経ないでした本件公訴提起の手続は、その規定に違反して無効である旨判示して同法一二五条二項各号に該当するかどうかについては何等審理することなく本件公訴を棄却したことが明らかである。
ところで、同法一二五条二項によれば反則行為と反則者とは区別され、同項各号に該当する場合には、反則行為をした者であつても反則者として取扱われることがないのであるから、右反則者にあたらない場合には、その者の反則行為について反則金納付の手続をとらずに公訴を提起することはもとより適法である。したがつて、反則行為をした者について、反則金納付の手続を経ることなく公訴が提起された場合においても、裁判所としては、その者が反則者にあたるか否かについて調査すべき義務があるものというべく、この点についてなんらの取調べをせず、その起訴が適法であるか否かについて未確定の状態のもとで本件公訴を棄却した原判決は結局刑事訴訟法三三八条四号の適用を誤り、不法に公訴を棄却したものというべく、この点において原判決は破棄を免れない。
よつて、其余の点について判断するまでもなく、同法三九七条一項、三七八条二号により原判決を破棄し、さらに審理を尽させるため同法四〇〇条本文に則り本件を盛岡簡易裁判所に差し戻すこととして主文のとおり判決する。